今シーズンの日本ラグビーを見ていると気になることがある。
それは、ラグビーの基本プレーができていないことである。その傾向は特に、トップリーグのチームよりも大学生・高校生のチームに多く見受けられた。
大学選手権を見ていても、パス・キックの精度の低さ、ボールを相手に見せてヒットするから自分が持ち込んだボールが味方にリサイクルされない。タックルの姿勢が取れないから、低く鋭いタックルができない。タックルの姿勢は、スクラムに繋がるので姿勢ができないイコール、スクラムが弱いにも繋がる。
何故このような状態になってしまったのだろう。私なりに持論を展開したい。
以前、「ルールが変わると、未来が変わる」という話をした(第4回の当コラム)。内容は高校ラグビーのスクラムに関するルール変更について。スクラムを1.5m以上押し込んではならないというルールができたために、高校ラグビー界の中でスクラムに時間をかけて練習をしなくなった。そして、この現象が日本ラグビー界にどのような影響を与えるかを、正確に読み取れた人は少ないというものだった。
このスクラムに関するエピソードと同じような現象が、現在の日本ラグビーに起こっている。
2000年前後からオーストラリアを中心に発達し、一世を風靡したシークエンス・ラグビーが、日本に入ってくるようになった。シークエンス・ラグビーとは、簡単に説明するとすべての動きを一定の原則の中で決めて、個々の判断を優先するというよりも、ゲームプランに乗っ取って実行することを優先するプレースタイル、考え方を連続して行うというものである。
シークエンスを完成させるためには、長い時間が必要だ。チームとしての決め事がしっかりあるので、まず決め事を憶えてその動きを実行できるようにしなければならない。一人でも動きが理解できていないと、シークエンスは上手くいかない。しかし、シークエンスの動きを憶えても、シークエンスを支えるラグビーの基本プレーができなければ、これもまたシークエンスが上手くいかなくなる。
分かりやすく例えば、スクラムが弱いからスクラム練習に練習時間の大半を消費すると、今度はシークエンスの作り込みが遅れてしまう。シークエンスの仕込みに時間を消費すると、基本プレーがおろそかになる。この2つの項目が1つでも上手くいかないと試合には勝てない。つまりこの2つの項目を、練習の中でバランスよく決められた時間内でペース配分して、両方共にレベルを上げなければならない。バランスが上手く取れた練習を1年間できたチームが、最後まで勝ち残っているのである。実際は、この2つの軸以外に、ランニング・フィットネス、ウエイト・トレーニングも練習しなければならない項目に入ってくるので、さらにバランスよくペース配分された練習が求められる。
コーチは大変である。日々のラグビーに対する勉強と研究以外にも、科学的管理の手法や、P・Fドラッカーに代表されるマネジメント(経営)的手法の導入など、今までラグビーにおよそ関係ないと思われていた分野にも、視野を広げてチーム作りの分野に応用していく必要がある。それらの見識を深め、チームの目標を掲げ、目標達成するために、何をして相手に勝つのかを明確にし、目標達成の手段として何をするのか決めなくてはならない。目標と手段が明確になったら、チーム作りの年間スケジュール、月間スケジュール、週間スケジュールなどを作成して、チームの成長に合わせて練習内容などを精査する。目標達成に向けて、チームの進捗具合を考慮に入れながら、全体を見直す。このサイクルを繰り返すことで、チーム作りのペース配分は、少なくとも回り始める。
これができれば、スクラムは強いけれどチームとしての攻撃力が低いチーム、ブレイクダウンには強いけれどスクラムやラインアウトなどのセットプレーが安定しないチームなど、バランスの悪いチームが減少するだろう。同時に指導者の口から、「時間が足りなかった」というコメントもなくなるだろう。
日本ラグビーの傾向として、シークエンス=形・決め事が優先される傾向が強いが、シークエンス・ラグビーを採用する前提にあるのは、肉体的な基礎体力、ラグビーの基本プレーのスキルが既に備わっていることが求められる。備わっている選手が行うから、可能なプレースタイルである。
基本的な部分がないのに、安易にシークエンス・ラグビーをやろうとすると、犠牲にするものも大きい。そのリスクを把握して、チーム作りに取り入れていければ、いい結果に繋がるだろう。
コーチは、本当に大変である。今までよりもやらなくてはならない事が増えた。自分が経験したラグビーで、コーチングや目標と手段を決めていると時代の流れに付いていけなくなる。
最後にこの先人の言葉で締めたい。
「賢者は歴史に学ぶ。愚者は経験に学ぶ」
以上
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